2024.03.08

ユーザビリティランキング139位から改善を重ね1位を獲得した
大日本印刷株式会社(DNP)の取り組み

2019年にDNPは初めてユーザビリティ診断を依頼し、その時のランキングは139位でした。改善を重ね、翌年は19位までランキングを上げ、2021年には1位を獲得しました。そして、22年も1位、23年は2位と上位を維持し続けています。

そんなDNPのWebサイトを支える、コーポレートコミュニケーション本部の黒木さん、田口さんに取り組みの内容やその効用、Webサイトで意識していることを伺いました。

写真左:黒木崇匡(くろきたかまさ)様
―本社コーポレートコミュニケーション本部Web戦略室 室長

写真右:田口佳央莉(たぐちかおり)様
―本社コーポレートコミュニケーション本部Web戦略室 DX連携推進グループ

ガバナンス強化と使いやすさ向上を目指したWebサイトリニューアル

DNPは2018年にWebサイトの全面リニューアルを実施しました。これはWebガバナンスの強化とさまざまな属性のサイト閲覧者のユーザビリティ向上を目指したものでした。

黒木「それまでは、各事業部門がそれぞれにWebサイトを展開していたため、ガバナンスやデザインシステムがバラバラになっており、会社としてのブランドを毀損する懸念がありました。加えて、インフォメーションアーキテクチャ(情報設計)が固まっていなかったため、情報の階層構造が深く、サイトの閲覧者が欲しい情報にたどり着きにくい状態でした。

プロジェクトの立ち上げから約2年を費やし、Web戦略の練り直し、デザインのテンプレート化、CMS全面導入を実施。ルール通りにサイトを更新すれば、自然とユーザビリティやコンテンツ品質が維持されるサイトを構築しました」。

田口「社内で進めたリニューアルだったため、本当に使いやすいサイトになっているのか、社会的にも認められるものなのか、客観的に判断する意味でもユーザビリティ診断をトライベックに依頼しました」。

その結果、初めてのユーザビリティランキングは150社中139位。「この結果には落胆した」と言います。

黒木「私はプロジェクトの責任者だったので、正直かなり落ち込みました。ただ、調査項目ごとに詳細なレポートがあり、やるべきことはおぼろげには見えていました。例えば、コンテンツはわかりやすいか、ナビゲーションは適切か、コンテクストに沿ったコンテンツになっているか……などです。であれば、課題になっている部分を潰していこうじゃないかという気持ちになりました」。

DNPのサイトは、会社としての広報や採用の情報などを扱うコーポレートサイトと製品やサービスの詳細情報を伝えるビジネスサイトに大別されます。その上、広報やIR、各事業部門やグループ会社など、さまざまな部署の200名以上がコンテンツを更新している状態でした。その全員とコミュニケーションを取り、ルールの啓発や考え方の伝播を行ったと言います。

黒木「各種ガイドラインをはじめとしたルール作りはできていたものの、それが浸透するまでには至っていなかったという反省を踏まえ、一方的な情報伝達ではなく情報共有の場として『Web担当者会議』をスタートし、2ヶ月に一度のペースで実施するようにしました。また、コンテンツ更新の最終承認を本社に集約し、当初は差し戻しもたびたび行いました。それを繰り返すうちに注意すべきポイントなどがリスト化され、徐々にコンテンツのルールが徹底され、質も上がっていきました。副次効果として、効果の高かったデジタルマーケティングの施策などが部署を超えて共有されるようにもなっていきました」。

田口「最初は大変でした。検索の重要性を説明したり、検索エンジンにどのようにインデックスされるかといった基本の部分から説明したりしました」。

コロナ禍により、対面での営業が難しくなりWebの重要度が社内的に上昇したことも後押しとなったそうです。そしてこの地道な取り組みの結果、ユーザビリティランキングは19位まで一気に上昇しました。

ユーザビリティを考える上で重要なサイト閲覧者の定義

ユーザビリティの向上を考える上では、Webサイトを閲覧するのはどのような人なのかを定義し、それに合わせてコンテンツを作成することが重要です。

黒木「コーポレートサイトは当社の全てのステークホルダーを対象としています。そして、それが難しいポイントでもありました。当社は決算情報といった財務情報はもちろん、非財務情報の開示なども積極的に行っています。ですが、専門的な内容のPDFを掲載するだけに留まっていて、機関投資家の方々には伝わったとしても、取引先や生活者の方にわかりやすいとは言い難いものとなっていました。そこで、Webサイトを閲覧するターゲットに優先順位を付けつつ、生活者にもわかりやすいサイトづくりを心がけました。その一環で、PDF情報をHTML化する検討も進めています。ビジネスサイトも同様で、その事業分野や技術に関わらない方が見てもわかりやすいコンテンツを心がけています」。

「DNPの今とこれからを発信するメディア」として、広くDNPグループ全体の活動や今後の方向、めざす未来を知っていただくことを目的にDiscover DNPで様々なコラムを発信。

サステナビリティページなどにもおすすめ記事/インタビュー記事を掲載することで、一般生活者にもわかりやすいような情報発信を心がけている。

ユニバーサルデザインの思想に基づく、Webアクセシビリティ

DNPは、ディスレクシア(識字障がい)の方や視覚障がいがある方も利用できるサイトづくりを行っています。その根底にはユニバーサルデザインの思想があると黒木さんは語ります。

黒木「制作物やパッケージをはじめ、生活のあらゆる場面で身近にある製品をつくっているDNPでは特に、誰もが使いやすいものをつくるユニバーサルデザインの思想が根付いています。それはWebサイトづくりでも同様です。そのためWebアクセシビリティは『ここまでやりきろう』と、戦略を考える時点で高い目標を決めていました。具体例を挙げると、読み上げリーダーを使用した際も文意が正確に伝わるように画像に適切なaltを設定したり、画像のコントラスト比にルールを設けたりしています。また、当社が1世紀以上にわたって開発を続けているオリジナル書体の『秀英体』をベースとして、ディスレクシアの方と共同開発した『じぶんフォント』を採用し、Webサイト上でワンクリックするだけで読みやすいフォントに変更できる仕組みも導入しています。『未来のあたりまえをつくる。』というブランドステートメントを掲げている会社として、ユニバーサルデザインに則ったWebサイトづくりも、世界の『あたりまえ』としていきたいですね」。

最終的には、ユーザー個人が自分の障がいや特性を入力するとCSSが書き換わり、画像やサイト内の余白まで調整される仕組みが全てに適応されるような時代になるのではないかと、黒木さんは付け加えました。

ディスレクシア含む読み書き困難の人に読みやすくしたフォントへ変更できる「じぶんフォント」を提供。アクセシビリティへの対応を積極的に行っている。

ユーザー視点を持つために読み上げリーダーでもサイトを確認する

ユーザビリティ向上のために、田口さんは自身でも「読み上げリーダー」を活用し、Webサイトのチェックを行っているそうです。

田口「パソコンの画面を見ずに、読み上げリーダーだけで内容が理解できるかどうか確認すると、ユーザーの視点に近づくことができます。ただ『チェックする』という意識だと見逃してしまいがちな、文字情報とaltの内容の重複や画像の中の文字入れなども、自身がユーザーとなることで『これだとわかりにくいな』と気付けるようになります」。

また、社員数が多くダイバーシティに富む企業であれば、社員一人ひとりを意識することでもユーザビリティを高められると言います。

黒木「社員にわかりやすいかどうかを意識することはとても重要です。DNPは社員と言っても、外国籍の人、海外勤務の人、障がいのある人、シニアスタッフ……とさまざまな人がいます。そんな社員一人ひとりにわかりやすいものをつくれば、結果的にユーザビリティは上がっていきます。また、社員が自社のことを広く理解することは、取引先や自分の家族と話をする際に自身の担当領域以外の話もできるようになるなど、メリットになります」。

細かいことまで徹底し1位への返り咲き

お二人にこれから取り組みたいことを尋ねると、グローバルサイトの強化とユーザビリティランキング1位への返り咲きを目指したいと返ってきました。

黒木「当社はグローバルサイトも持っているので、国内で進めたWebサイトリニューアルやルール啓発の経験を生かし、グローバルサイトの改修にも着手しています。グローバルサイトは、GDPR対応やアナリティクスなどの法規制が国によって異なるケースがあるため、やるべきことは山積みです。そして、やはりユーザビリティランキングの1位に返り咲きたいですね。19位と1位では社内からの評価や、Web担当者のモチベーションの上がり方が雲泥の差でした。順位は指標としてもわかりやすいですし、Web担当者全員が誇りに思えるので、やはり1位を目指したいですね」。

田口「ユーザビリティ調査の評価項目がよくできていて、上位を獲得するには社内の協力が不可欠です。だからこそみんなで目標に向かって頑張ることができるし、その過程で社内の『横の連携』も増えていきます。そして再びの1位を目指します」。

各社がさらなるユーザビリティの向上を目指すため、ランキング上位のサイトのユーザビリティはどんどん上がっていきます。黒木さんは「私たちも他社のサイトのいいところから学ばせてもらいますし、逆に他社のお手本になるようなサイトづくりを進めたい」と締めくくった。

DNPがユーザビリティランキングで急上昇した理由は、課題の迅速な特定と解決、社内協力の強化、そしてスピード感を持った対応にありました。